目次
ある保育士が、子どもを嫌い?になった理由
今回のクライアントは、保育士として大阪府岸和田市の認可保育園で1年間勤務されていた、22歳になる女性の吉田さん(仮名)です。
「私、もしかすると子どもが嫌いなのかもしれません。保育士ではなく別の職業に進んだ方が良いでしょうか?」
吉田さんは、私との初めてのカウンセリングでこのように切り出されました。
子ども嫌いな保育士が、保育士を目指した理由
「子どもが嫌いかもしれないのに、どうして保育士になろうと思ったの?」
「元々は子どものことは大好きだったんです。保育士を目指したのは、中学生の職業体験で保育園に行ったときに、その大好きな子どもにたくさん囲まれて、イキイキと楽しそうに働かれている保育士さんを見て、私もこの職業に就いてみたいと思ったことがきっかけです。」
「それが、どうして子どもが嫌いかもしれないと、思い出してきたんだろう?」
「保育園で働きだした当初は・・・」
保育士として直面した、子どもの素の姿
吉田さんが、子どもが嫌いかもしれないと思いうようになった理由は、保育士として働きはじめて直面した、子どもの素の姿でした。
・静かにといっても、すぐに騒ぎ出す
・気に入らないことがあれば、すぐに乱暴をはたらく
・自分の主張が通らなければ、泣きわめく。そのくせ、私の言うことは聞かない
・私の容姿について、バカにする
・私が嫌がることを、喜んでする
「程度の差はあるけれど、どれも子どもらしい行動ですよね。保育士として働きはじめるまでは、子どもにこのようなイメージはなかったんでしょうか?」
「いえ、私と弟とは12歳年が離れていますので、こどもがそういうものということは、よく理解していました。保育園で働きだしても、はじめのうちは、手ごわい子どもが多いなとは思いましたが、子どもに対して嫌悪感を感じることはなかったです。」
保育士が子ども嫌いを疑うようになった原因
「では、何がきっかけで」
「きっかけというより、中々静まらないクラスに対して、主任先生から厳しく指導されたり、運動会や参観などの行事の時にまとまらない様子を保護者にみられ、そのことで苦情を受けた園長先生からお叱りを受けたりすることが度重なり、自分自身に余裕がなくなり、言うことを聞いてくれない子どもたちに対して、イライラが募ってきたんです。それが積み重なった結果かなと思ってます。」
「なるほど。上手く回っていないクラス運営に対して、先輩や園長先生からのサポートはなかったんでしょうか?」
「今どこも保育士不足でしょ。私が勤務していた保育園も、ギリギリの人数で運営されていて、どの職員も周りに配慮する余裕がないんです。」
「しかし、吉田さんは、まだ学校を出たばかりでしょう。一人で全ての課題を解決していくのは困難だと思いますけどね。園全体でサポートしていかないと、上手くクラスを運営していくことは難しいと思うな。」
子ども嫌いを疑った保育士 実は子ども好き
私は、吉田さんに対する初めてのカウンセリングを以下の提案で締めくくりました。
「この動画をみて、どのように思いますか?」
吉田さんに3つの映像を見て頂き、それぞれに感想を伺ってみました。
一つ目は、新生児がベッドで泣いている映像。
2つ目は3歳の男の子が積み木をばら撒いて、部屋が乱れていく映像。
3つ目は、4歳の女の子が、おもちゃ売り場の床で転げまわって地団駄踏んでおねだりをしている映像。
吉田さんの感想は
1つ目:お腹がすいたのかな?オムツが濡れてるのかな?お母さんはどこ?
2つ目:男の子楽しそう。いい顔してるな。
3つ目:私も、同じようにお母さん困らせたことあるな。
吉田さんの映像への感想を表すように、映像をみている吉田さんは、子どもを心配する表情や子どものかわいらしい様子に微笑んでおられました。そのことを吉田さんにお伝えすると、「やっぱり子どもってかわいいいですよね。」とのこと。
新米ママも保育士もキャパオーバーは禁物
私から吉田さんにお伝えしたことは、今の吉田さんの状況は、新米お母さんと一緒ではないかということです。
いくらかわいいわが子でも、精神的に切羽つぱっている時に、泣き止まないわが子に対して、否定的な気持ちになったことがない新米おかあさんは、いないのではないでしょうか。
子どもの将来を考えて、しっかり躾をしているのに、全く言うことを聞かない子どもに、イライラした経験がないお母さんは、いないのではないでしょうか。
落ち着いた気持ちであれば、笑い飛ばせた子どもの自分へのからかいに、忙しい時にからかわれ、カッとした経験を持たないお母さんは、いないのではないでしょうか。
吉田さんが子どもを嫌いになってしまったのではなく、子どもをかわいいと感じる余裕がなくなっただけで、必要なのは職種転換ではなく、一人一人に向き合える保育環境やキャパオーバーになってしまった時の周囲のサポートではないかと、問いかけてみました。
本当に子どもが嫌いな人が保育士をすることは、苦痛であり自身の成長にも繋がりにくいものです。そうであれば、保育士から違う職種に移られることをお勧めするのですが、一度自分自身に問いかけなおしてほしいと伝え、その日のカウンセリングを終えました。
子ども嫌いが疑われた保育士の転職先選定
2度目のカウンセリングの日。吉田さんから「色々と自問自答したり、保育士をしている友達や子育て中のおかあさんたちにも話を聞ききました。みんな私と同様、いくら子どもがかわいいからと言っても、腹も立つし、憎たらしくなるようで、そんなの当たり前でしょ、って言われちゃいました。少し肩の力が抜けたようで、もう一度子どもが好きだという自分を信じて、保育の仕事に就きたいと思います。」という決断をうかがいしました。
そこから、面接に行く保育園の選定にかかりました。吉田さんは、ブラックな保育園でなければ、基本的にはどこでも良い。強いてあげれば、通勤にあまり労力を割きたくないので、乗換が多かったり、最寄駅からかなり歩かないといけないような保育園は避けたいということでした。
その条件に私から、新卒保育士の定着率が良く、経験の浅い保育士の支援体制が整っている保育園という条件をつけて選定し、ここなら大丈夫という保育園を吉田さんにご案内しました。
その保育園には、すでに当社から転職支援を行って保育士として勤務しておられる方が、今も元気に働いておられますので、安心してご案内できました。
保育士への支援体制がしっかりしてる保育園は、面接も上手
面接を受けた吉田さんから連絡がありました。
「本日面接に行ってきました。」
「上手く自己アピールできましたか?」
「一年足らずで前職を辞めたことを聞かれ、あまり前職の悪口になってもいけないので、取り繕った返答をしていたのですが、園長先生の聞き方がうまく、ついつい詳細に話してしまい、気が付いた時には、子どもが嫌いなんではと思い出したことまで、打ち明けてしまいました。」「そうすると、それは大変だったね、と何でもないことのように笑顔で返されたので、そんなふうに思う保育士はやっぱりダメでしょうか?と質問したところ。そのような中で保育をしてれば、誰でもそう思うでしょ。うちでは、いつでも相談できる雰囲気と仕組みがあるから、もしうちの保育園で働くことになったら、一人で抱え込んだりせず、何でも相談してね。と激励されてしまいました。」
吉田さんも保育園をすごく気に入って頂いたようで、保育園から採用の連絡があった時には、二つ返事でお受けされました。
仕事も面接も一番大事なのは平常心
転職でもなんでも、平常心で考えられているかというのは、非常に大切です。特異な環境下、切迫した状況、落ち込んでいる時に出した、自分の思いは、もしかすると本心ではない可能性があります。
吉田さんのカウンセリングを通して、クライアントがどのような心の状態でその結論を出したのかに注意してみる癖がつき、そのことがミスマッチに繋がらない仕事の案内の実現に活きてきたと思います。自身、一歩前に進めたと感じたメルクマールとなる転職事例でした。